230坪の立派な古民家解体現場の上に、突如現れた実物大の屋根サンプル。周囲の景観と相まって圧巻の迫力を放ちます。
飛騨高山で、伝統的な木造建築や古民家再生・移築を手がけている「いもと建築」です。
現在、私たちは230坪という非常に大きな古民家の解体・移築プロジェクトを進めています。
今回の移築再生における最大のハイライトであり、大きな挑戦のひとつが「屋根形状の大幅な変更」です。元の建物の良さを活かしつつ、新たな息吹を吹き込むために、建築家さんによって計画された新しい屋根。しかし、図面やパース(イメージ図)だけでは、実際の空間の広がりや美しさ、迫力を施主様(クライアント)に完全にお伝えすることは難しいものです。
そこで今回、「解体中の現地に、原寸大(実物大)の屋根サンプルを組み上げる」という、これまでにない試みに挑戦しました。
本記事のハイライト
- 実物大サンプルの目的:図面では伝わらないスケール感と迫力、納まりを解体現場で検証。
- 9尺の軒出と社寺の「照り」:約2,700mm張り出す屋根をいかに自立させるかの構造的試行錯誤。
- 伝統的な「榑葺き(くれぶき)」:オリジナルの納まりを検証するために製作した実寸サンプル。
- 圧巻の迫力:出来上がった屋根がもたらす圧巻の迫力。
1. なぜ「実物大サンプル」が必要だったのか?
これまで数多くの古民家移築再生や伝統建築を手がけてきましたが、解体現場の既存構造の上に実物大の屋根サンプルを製作するのは、私たちにとっても初めての経験でした。
今回の設計では、移築後の屋根に社寺建築のような優美な「照り(てり=中央が緩やかに凹む曲線)」をつけます。さらに、軒の出(のきので)は9尺(約2,700mm)という圧倒的なサイズ感になります。
9尺もの軒が出ると、空間の印象や重厚感は図面(平面)上と実物とでは劇的に変わります。 「施主様や設計を行う建築家のかたに、本物のスケール感と迫力を感じていただきたい」「自分たちも実際の納まりを事前に確認しておきたい(本音)----その想いから、解体中の骨組みの一部を利用して、原寸大サンプルを製作することとなりました。
2. 九尺の軒をどう自立させるか? 構造との試行錯誤
現場での製作は試行錯誤の連続でした。最大の難関は、「9尺(約2.7m)も張り出す巨大な屋根を、サンプルの段階でいかに安全かつ美しく自立させるか」という点です。
一般的な住宅の構造では、これだけの軒の出を維持することができません。「垂木のサイズを大きくするか」「扇垂木にするか」「桔木を入れるか」「雁用(がんよう)と持送りで補助するか」など、様々なシチュエーションを考えました。社寺建築の手法をそのまま応用することが間違いなにのですが、今回はデザイン的な意向で、トラディショナルになり過ぎないように仕上げる必要がありました。そのため、これまでにやったことのない納め方を職人全員で話し合い、知恵を振り絞りました。
9尺(約2,700mm)張り出す軒の出。整然と並ぶ垂木。普段は見ることがない深い深い軒下の空間。
下から見上げた時は、これまでに見たことがないような深い軒下に感動しました。試行錯誤しながら何度も調整を重ね、ついにサンプルが完成した時の達成感はひとしおでした。
青空に映える軒裏のダイナミックな納まり。下からの視線でどう見えるかも入念に確認しました。
3. 伝統の屋根仕上げ「榑葺き(くれぶき)」
今回の屋根には、伝統的な木造屋根の葺き方(仕上げ)である「榑葺き(くれぶき)」を採用する予定です。榑葺きとは、薄く割った木板(榑板)を少しずつずらしながら重ねて葺いていく、歴史ある仕上げ方法です。
現場で製作した榑葺き(くれぶき)の原寸サンプル。木の重ね幅(葺き足)や軒先の納まりを検証します。
社寺建築や飛騨の民家の榑葺きや柿葺き(こけらぶき)とは異なり、今回は独自の納まりが要求されました。榑葺きのような伝統的な手法は何百年もかけて、その実用性が実証されているので、それとは違うオリジナルな納まりで、しかも機能も確保しながら、となると、これはなかなかに難易度が高く苦労しました。
そのため、製作した屋根サンプルの一部に実際に榑板を幾重にも葺き立てたリアルサンプルも作成しました。仕上がりのイメージ、重なり幅(葺き足)、軒先の納まりなど、細かい部分を実物で検証できたことは、今後の本工事に向けて大きな収穫となりました。※本物の榑板は高価なため、サンプルでは「榑もどき」を使用しています。
4. 目の前に現れた「圧巻の迫力」
こうして苦労の末に完成した原寸大の屋根サンプル。ドローンで遠くから全景を撮影したところ、圧巻の迫力でした。230坪という、ただでさえ大きな古民家なのですが、屋根が入母屋の照り屋根になったことで、ますます迫力が増しました。
既存の大きな屋根の上に現れた、実物大の屋根サンプル。新しい屋根のラインが雄大に姿を現しました。
既存の大きな古民家の骨組みの上に、新しく生まれ変わる照り屋根のラインが出来あがりました。
まとめ:伝統を受け継ぎつつ、新たな挑戦をする
今回の「実物大サンプル製作」は、私にとっても新しい挑戦であり、非常に濃密で学びの多い経験となりました。
230坪という壮大な歴史を持つ古民家。その想いと構造を受け継ぎながら、新たな土地で最高の姿へと生まれ変わらせるために、妥協のない準備を進めています。解体工事はいよいよ終盤を迎え、その次は刻み直し、そして再築(建て方)へと進んでいきます。今後の進捗もブログで発信していきますので、ぜひ楽しみにしていてください(^-^)
古民家を新しく生まれ変わらせる
飛騨高山のいもと建築では、古民家の改修や、鑑定・解体・手刻み・移築をトータルサポートいたします。